お知らせ

お墓の引っ越し

突然やってきた墓守

両親の眠る墓は日本三景宮島が見下ろせそうな場所にあります。
墓の相続手続きのため市役所を訪れたとき、東京に住む私に担当の方からこう言われました。
「あなたが元気なうちにお墓をどうするか決めてくださいね」と。
いま、お墓問題は大変なことになっているそうです。
両親が墓を建てたけれど、墓の面倒を見る子世代は遠くに暮らしていて、いつのまにか連絡先がわからなくなっている人が多いそう。
墓守がいないということですね。
雑草が生い茂ったり、木が伸びて隣の敷地内に根が張ってしまい、市役所に苦情が届くけれど、市としてもどうにかしたくても所有者と連絡が取れないケースが多くて本当に困っているそうです。
担当者から半ば懇願するように「連絡先が変わったら必ず市役所へ届け出てください。
お墓掃除は最低でも年に一回は必ず来てください」と念を押されました。
将来的に墓を移動するにしても、墓じまいをするにしても、相続人の私が「生きているうち」ではなく、「元気なうちに」を強調され、市役所を辞しました。

無縁墓

父は月に一度は墓参りをしていたので、雑草もなくお墓はきれいなものでした。ところがコロナ禍で県外移動が憚られるようになり、一周忌で久しぶりに訪れた墓所は雑草が生え放題、墓石も汚れ、見るも無残な状態で悲しくなりました。手入れをしないとあっという間にそんなことになってしまうのですね。父のおかげでお墓が美しく保たれていたことに今更ながら感謝しました。そのとき墓所の通路に白い紙のようなものが地面に打ち付けられているのが視界に入りました。当家の墓にはなかったのですが、気になったので記載内容を見てみると「この墓地の所有者の方へ。一年以内に名乗り出てください」というものでした。いわゆる無縁墓を疑っての通知です。その墓所は100区画ほどありますが、半数近くにその通知が地面にありました。ということは約50世帯ということになります。こんな小さな墓所でさえこの状態ですから、墓地管理者は大変だと思いました。

墓じまいを考える

一般的に墓守の役割は、清掃、法事の施主、管理費の支払いなどがあります。
墓守は昔であれば長男などその家系を継ぐ人がなるのでしょうが、私の場合、嫁いでしまったので、もはや旧姓を継ぐ人はおりません。
となると、よほどのことがない限りその墓に入るのは誰もいないことになります。
私の存命中は墓守をしますが、そのあとを子供たちが面倒をみてくれるかどうかは定かではありませんし、墓守をしてもらおうとも考えていません。
だからといって、すぐに墓じまいをする気にもなれず、どうしたものかと答えを出せずにいます。
いずれは永代供養をしてくれるところに移すことになりそうですが、父が建てたお墓を簡単に手放すことに抵抗があります。
とはいえ、もしも私が突然亡くなってしまったら、病気になって身動きが取れなくなったら、そう考えると「元気なうちに」という声が耳元に聞こえてくるのです。

いまはお墓参り代行サービスで動画配信を利用することも可能ですが、やはり自分でできるうちは清掃もしたいし、お花をお供えして線香も手向けたいと思います。
いくら動画配信されたとしても墓前で報告したいこともあります。
個人の感想ではありますが、現代においてもお墓は故人と対話する場であり、祈りの場であり、心の拠りどころに違いないと思うのは時代遅れでしょうか。

かといって、永久にこのままというわけにはいきません。
当家は今回たまたま無縁墓の疑いには該当しませんでしたが、うかうかしていたら無縁墓を疑われてしまうかもしれません。
万一無縁墓と決定してしまったら、ある日墓所に行ったときにお墓はなく更地になっている可能性もあるわけです。
だとしたら、無縁墓にしないためにも「墓じまい」について今一度真剣に考えておく必要があります。
墓じまいとは、今あるお墓を撤去して更地にし、使用権を墓地の管理者に返還し、取り出したお骨を別の場所や別の形で供養することです。
一言で表すと、お墓の引っ越しです。
これを改葬といいます。
これら一連の行為は行政手続きが必要で、勝手に行うことはできません。

墓じまいの流れ

1. 親族間で相談

後から親族間でトラブルにならないように、供養方法や新しい納骨先について事前に同意を得ておきます。

2. 墓地管理者へ連絡

墓地管理者へ改葬を連絡し、「埋蔵証明書(埋葬証明書)」の発行を依頼します。
墓地管理者は墓地所在地によって異なります。

寺院墓地ご住職
公営・民間霊園霊園管理事務所
共同墓地墓所管理組合

※ 不明の場合は、墓地所在地の自治体の役所に確認しましょう。

3. 新しい納骨先と契約

新しい納骨先と契約を完了し「受入証明書」の発行を依頼します。

4. 改葬許可書を取得

現在の墓地所在地の自治体から「改葬許可申請書」を取得し、「埋蔵証明書(埋葬証明書)」と「受入証明書」を添えて、墓地所在地の自治体へ提出すると「改葬許可書」が発行されます。

5. 墓石の閉眼供養、お骨の取り出し

閉眼供養を実施します。

6. 墓石の撤去・解体工事

墓石の解体工事を担当する石材店に依頼し、墓石と墓石の基礎(土台)の撤去・解体をし、更地に戻してから墓地管理者に返還します。

7. 新しい納骨先にお骨を納骨

新しい納骨先に納骨し、納骨時に墓地管理者に「改葬許可書」を提出します。

墓じまい後の新しい納骨先について、近年ではお墓ではなくお骨だけを納める永代供養墓・納骨堂・合祀墓、土の中に埋葬する樹木葬、粉状に加工したお骨を海や山などに撒く散骨、空の彼方へ散骨するバルーン葬・宇宙葬などもあります。
多様化の時代、お墓に対する考え方も価値観も従来の観念にとらわれない様々な納骨方法が登場しています。
それぞれのメリット・デメリット、費用負担などを熟慮したうえで、親族間で納得のいく形で供養できたらよいと思います。親の墓、自分の墓について、ご家族でじっくり考えてみてはいかがでしょう。